よみがえった湿地

里山の湿地は、開発によって埋め立てられたり、潅木や雑草が伸びるままに放置されて、少なくなってきています。龍泉寺(岡山市北区下足守)の湿地では、潅木や雑草が生い茂っていましたが、、湿地の植物が長年にわたって細々と種を残していました。
「龍泉寺の湿地の保護活動」は、元岡山県立高松農業高校教諭 藤原誠一氏(故人)が半田山植物園で開催されていた写真展を見たことから始まりました。藤原さんが書き残された資料と加藤喜明会長(故人)から生前お聞きしたお話から、「龍泉寺の自然を守る会」が発足するまでの活動を紹介します。

生前、藤原先生から渡されたファイルに、龍泉寺の湿地を保護を始めるに至る思いの資料が残されていました。 この「よみがえった湿地」のページでは加藤さんからお聞きした話を紹介してきましたが、物事の始まりである藤原先生の“思い”を織り込んで再編いたしました。  (2018年9月)

半田山植物園の写真展

藤原先生は、2007年10月に半田山植物園で開催されていた「須藤順一写真展」を見て、岡山市内に美しい自然が残っていることに感銘しました。山陽新聞の読者欄に掲載された藤原先生のその時の気持ちを紹介します。

岡山市内の自然守っていきたい 藤原誠一(82)

今月初め、岡山市法界院にある半田山植物園で開かれている「須藤順一写真展 龍泉寺のトンボたち」を見に行って、岡山市下足守の龍泉寺にこんなにたくさんの種類のトンボがいることを知り、びっくりしました。 ----- 中略 ----- 今、地球温暖化とか環境破壊が心配されていますが、トンボの存在はそのバロメーターでもあります。この写真展を見て、岡山市内にもまだまだ美しい自然が残っていると意を強くし、これからも環境保全に努めていきたいと思いました。  (山陽新聞「ちまた」2007年10月13日掲載)

藤原先生は、毎年のように龍泉寺の「お滝まつり」のビデオ撮影に行っていましたが豊かな自然が残っていることを知りませんでした。面識のあった龍泉寺の奥さんに、トンボやサギソウがあるのか確認して、山陽新聞の「ちまた」欄に投稿しました。

最初に撮影したトキソウ
加藤喜明 2008年6月1日

高松農業高校の同窓会での話が

2007年○月卒業後50年の同窓会がありました。同窓会に出席していた加藤さんが、近況報告で「山野の草花を観察し、カメラで撮影することを趣味としている」ことを話しました。その時、藤原先生も出席していました。
2008年5月同窓会に出席していた恩師の藤原先生から加藤さんに「龍泉寺に珍しい花が咲いている・・・」との連絡がありました。
潅木が茂り、背丈ほどある枯れ草の間から、薄赤紫色の「トキソウ」の花を発見しました。身近で手付かずの場所に、トキソウが咲いていることに、驚きと感動を覚えました。

龍泉寺の湿地に魅せられて

加藤さんは、長年、岡山県自然保護推進委員を努めていました。
8月には、「サギソウ」が咲いているのを見つけました。龍泉寺の湿地で花を観察し、写真撮影を楽しんでいるうちに、湿地に咲く花の自然環境などについて詳しいことが知りたくなりました。「鬼城山ビジターセンター」の当時の所長さんに、湿地の野草の保護について色々お尋ねいたしました。

潅木の伐採と下草刈り

湿地は「龍泉寺」の広い境内に点在しています。龍泉寺の住職は、境内にモミジを植栽し育てておられました。龍泉寺の奥さんは、境内の野草を大事にされていました。加藤氏が、龍泉寺さんに、「湿原をよみがえらせるために、潅木や雑草を刈り取りたい」ことをお話ししたところ、快諾され、協力を得ることができました。

保全する前の「もみじ谷湿地」

潅木や雑草を刈り取った後の「もみじ谷湿地」

湿地の日照、水、風通しなどの改善を試みましたが、一人で湿地を管理することは困難でした。藤原先生が親しくしている友人に呼びかけ、ボランティアグループ「龍泉寺の自然を守る会」を立ち上げることになりました。

2008年11月18日  出席者4名で龍泉寺の自然を守る会設立発起人会を開きました。

2008年12月  後に、「サギソウ湿地」と命名することになった湿地の潅木と雑草を刈り取りました。

2009年1月  後に、「もみじ谷湿地」と命名することになった湿地の潅木と雑草を刈り取りました。整備後の春には、トキソウが咲きそろいました。

後記・・・

湿地に手を入れたことによりショウジョウバカマなど少なくなった野草もありますが、全体的には種類も数も増え、多くの野草が見られるようになりました。
数十年前には、日常的に見ることのできた野草が、現在では少なくなり、種によっては「絶滅危惧種」に指定される状況になっています。種が、わずかでも残って花を咲かせているような湿地であれば、下草刈りなどで生育環境を整えてやれば、湿地が復元することを体験をしました。
これから先、現在の状態を守っていかなければ・・・と思っています。

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