温暖化と昆虫

気候の温暖化にともなって、亜熱帯性の昆虫が日本列島を北上し、勢力を伸ばしてきています。龍泉寺周辺(岡山市北区下足守)で、最近見かける亜熱帯性昆虫を紹介します。

クマゼミとアブラゼミ

60年以上前になりますが、小学生の夏休みの自由研究で昆虫採集したことがあります。家の近くで、虫網を持って、カブトムシ、クワガタ、トンボ、チョウ、セミを採りにいきました。 採取できたセミは、ニイニイゼミが多く、次にアブラゼミでした。クマゼミは、時折、高い木の上から鳴声が聞こえましたが、子供がクマゼミを捕まえるのは難しかったことを思い出します。 亜熱帯性のクマゼミは、その当時、生息個体も少なく大変珍しいセミでした。

  

岡山市にある環境学習センターが、夏休みに子どもたちと西川公園でセミの抜け殻調査を行っています。2021年7月の調査では、クマゼミ:802個、アブラゼミ:13個、ニイニイゼミ・ツクツクボウシ:0個でした。クマゼミが98%、アブラゼミ2%とクマゼミが圧倒的に多いことが分かります。
龍泉寺では、セミの鳴き声からクマゼミよりアブラゼミが主体で、ツクツクボウシ・ヒグラシの鳴き声も聞こえます。。龍泉寺の標高は約180mで、岡山市街緑道公園より涼しく、自然豊かです。アブラゼミが棲みやすい環境が残されています。
クマゼミが増加し、アブラゼミが減少したのは、地球温暖化が原因の一つです。

タイワンウチワヤンマ

タイワンウチワヤンマとウチワヤンマは、姿が良く似ています。亜熱帯性のタイワンウチワヤンマは、尾部のウチワ状の部分が全部黒色です。ウチワヤンマのウチワ状の部分は一部に黄色があるので、区別できます。タイワンウチワヤンマが、瀬戸内海沿岸の各地で見られるようになったのは、1980年代といわれています。2021年現在、東京都・千葉県まで北上しています。
出典:「神戸のとんぼ/温暖化? 北上するタイワンウチワヤンマ改訂版

  

龍泉寺の長池・龍王池で、一年で最も暑い8月にタイワンウチワヤンマを観察できます。 タイワンウチワヤンマは、池端の枯れ茎に止まり、じっとしていることが多いようです。縄張りにギンヤンマが侵入してくると追っ払っていました。
ウチワヤンマは、龍泉寺のサギソウ湿地の枯れ木に止まっているのを7月に見かけましたが、個体数は少ないようです。

ツマグロヒョウモン

亜熱帯系のチョウであるツマグロヒョウモンも日本列島を北上しています。ツマグロヒョウモンは、メスとオスでは翅(はね)の模様色が異なっています。メスの模様は、体内に毒をもつ亜熱帯の蝶 カバマダラに擬態しているといわれています。幼虫は、毒々しい色、姿をしています。

  

ツマグロヒョウモンは、1980年代までは近畿以西に分布していました。2000年に関東地方で確認できた個体はわずかでしたが、2009年の調査では関東地方に勢力が拡大し定着ていることがわかりました。出典:ツマグロヒョウモンの分布状況(環境省「日本の動物分布図集(2010)」
2020年には、岩手県大船渡市でツマグロヒョウモンの産卵が報告されています。出典:東海新報2020/8/29
ツマグロヒョウモンの幼虫は、スミレ科の葉を食べて生育します。ツマグロヒョウモンの分布が北上している原因に、気候の温暖化と、スミレ科の園芸種パンジー、ビオラが花壇に植えられたことによるといわれています。
龍泉寺では、湿地に自生しているサワヒヨドリの花(花期:9月~10月)に集まってきます。周辺にはスミレ科の植物はほとんどありませんが、なぜかサワヒヨドリの花に集まってきます。

岡山市の気温の推移

温暖化はどのくらい進んでいるのか?
岡山市の気温の推移を1900年から調べました。気温は、年によって変動があるので、10年間の平均気温の推移でマクロ的に把握しました。

10年間の平均気温推移 ℃(岡山市)
年 代 ①日平均
年間
②日最低
平均1-2月
③日最高
平均7-8月
1900~09 14.4 △0.4 30.0
1910~19 14.7 △0.3 31.0
1920~29 14.6 △0.8 31.4
1930~39 14.7 △0.9 31.4
1940~49 14.4 △1.1 31.4
1950~59 14.5 △0.5 30.8
1960~69 14.5 △1.7 31.6
1970~79 14.7 △0.9 31.3
1980~89 15.3 △0.1 31.2
1990~99 16.2 1.5 32.0
2000~09 16.6 1.7 32.5
2010~19 16.3 1.1 32.8

出典:気象庁岡山測候所のデータ加工

①日々の平均気温の10年間の平均値
②1-2月の日々の最低気温を2ヶ月平均し、10年間の平均値
③7-8月の日々の最高気温を2ヶ月平均し、10年間の平均値

亜熱帯性の昆虫が生息するには、冬の寒さに耐えて、卵または幼虫で越冬し、生きのびる必要があります。1年で最も寒い、1-2月の最低気温が、昆虫の越冬に関係あるのではと考えます。
1980年代から気候の温暖化が始まっていることが、データから読み取れます。

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